不動産投資公開日

利回りだけ見て買っていい?日本の収益不動産は出口から逆算する

2026年8月25日、経済産業省が2027年度の税制改正で「事業構造転換・強化促進税制」の新設を要望する方針であることが報じられました。企業が一定期間内に事業を売却・買収した場合に、売却益への課税を繰り延べるという内容で、日本経済新聞は成長分野への投資を条件とする案だと伝えています。狙いは事業再編と成長投資を促し、企業の「稼ぐ力」を高めることにあるとされます。

これは企業の事業再編を対象とした要望段階の話で、個人の不動産売買にそのまま当てはまるものではありません。ただ「持ち続けること」よりも「売って、次に投じること」を政策が後押ししようとしている点は、収益不動産を検討する個人投資家にとっても示唆があります。日本の不動産は、同じ物件・同じ売却価格でも、いつ売るかによって手元に残る金額が変わるからです。

本記事では、購入前に確認しておきたい出口(売却)まわりの税制と、出口を狭めないための実務ポイントを整理します。個別の税額計算は前提条件で大きく変わるため、最終的な判断は税理士など有資格の専門家への確認をおすすめします。

なぜ買う前に出口から考える?

収益物件の検討では、家賃収入を物件価格で割った表面利回りが最初の指標になります。ただし表面利回りは、管理費・修繕積立金・固定資産税・火災保険料・空室期間といった保有コストを差し引く前の数字です。近年は修繕費や保険料といったコストが上昇傾向にあるとされ、購入時に想定した実質利回りが、保有中に目減りしていくことも起こり得ます。

さらに、投資の成否が確定するのは売却したときです。保有中のキャッシュフローが計画どおりでも、売却時の価格と税負担しだいで、通算の収支は変わります。買う前に「誰に、いつ、いくらで売るのか」を仮に置いておくことが、実務上の基本とされています。

保有期間で税率はどう変わる?

個人が不動産を売却して得た利益は、給与などとは分けて計算する譲渡所得として扱われるのが一般的です。税率は保有期間によって長期・短期に区分され、税負担の差は小さくありません。

区分の判定は「売った日から数えて何年持っていたか」ではなく、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで見るのが実務上の取り扱いとされています。実際の所有期間が5年を超えていても、判定基準日の関係で短期扱いになることがある点に注意が必要です。

出口の判断で押さえておきたい数字(目安)

長期・短期の分かれ目
5

譲渡した年の1月1日時点で判定するのが一般的

長期譲渡所得の税率
20.315%

所得税15.315%(復興特別所得税込み)+住民税5%

短期譲渡所得の税率
39.63%

所得税30.63%(同上)+住民税9%

非居住者からの購入時の源泉徴収
10.21%

買主が支払時に差し引くのが原則。例外あり

譲渡所得の区分と税率(個人の場合の一般的な取り扱い)

区分所有期間の目安所得税(復興特別所得税込み)住民税
短期譲渡所得譲渡した年の1月1日時点で5年以下30.63%9%
長期譲渡所得譲渡した年の1月1日時点で5年超15.315%5%

根拠となる主な法令

所得税法 第33条
資産の譲渡による所得を譲渡所得として区分する旨を定めています。
租税特別措置法 第31条
所有期間が一定を超える土地建物等の譲渡について、長期譲渡所得として課税する特例が置かれています。
租税特別措置法 第32条
所有期間が短い土地建物等の譲渡は、短期譲渡所得として重い税率が適用される取り扱いとされています。
租税特別措置法 第37条
一定の事業用資産を買い換えた場合に、譲渡益の一部について課税を将来に繰り延べられる特例が定められています。
所得税法 第212条第1項
非居住者に対して国内不動産の譲渡対価を支払う者は、原則として支払時に源泉徴収を行う義務があるとされています。

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売却益への課税は繰り延べられる?

冒頭の経産省の要望案は企業向けですが、個人の不動産にも、一定の要件を満たす買換えについて譲渡益への課税を将来に繰り延べる仕組みが従来から置かれています。事業用資産の買換え特例(租税特別措置法 第37条)がその代表で、一般に譲渡益の一定割合について課税が繰り延べられる取り扱いとされています。

ただし、対象となる資産の種類・所在地・買換えの期限・買換え資産の使用開始など、要件は細かく定められており、割合も組み合わせによって異なるとされています。「売却益に税金がかからなくなる制度」ではなく「将来に先送りする制度」である点も、資金計画上は重要です。適用可否は必ず事前に確認してください。

出口を狭めてしまう要因は?

売却時の価格は、次の買い手がどれだけ現れるかで決まります。実務では、次の買い手が金融機関の融資を受けられるかどうかが、そのまま売りやすさに影響するとされています。築年数が古い物件や、法定耐用年数を大きく超えた物件は、融資期間が短くなりやすく、買い手の層が限られる傾向があるとされます。

また、再建築ができない土地、接道条件に制約がある土地、管理組合の修繕積立金が著しく不足しているマンションなども、価格交渉で不利になりやすい要素として挙げられます。購入時の利回りが相場より明らかに高い物件では、その理由が出口の狭さにあることも少なくありません。

保有コストの上昇も出口に影響します。修繕費や保険料が上がれば、同じ家賃でも実質利回りは下がり、買い手が計算する期待価格も下がります。購入時点の数字だけでなく、コストが上がった前提でも成り立つかを試算しておくと安全です。

海外在住のまま売るときは何が違う?

日本国外に居住したまま日本の不動産を売却する場合、買主が支払時に譲渡対価から源泉徴収を行うのが原則とされています。税率は一般に10.21%で、一定の要件を満たす場合には例外的に源泉徴収が不要となる取り扱いもあるとされています。

源泉徴収された金額は、確定申告を通じて最終的な税額と精算するのが一般的な流れです。海外在住者は日本国内に納税管理人を定めて届け出る必要があるとされ、売却の直前に慌てて手配すると決済スケジュールに影響することがあります。売却を検討し始めた段階で、税理士や仲介会社に必要な手続きを確認しておくことをおすすめします。

よくある漏れと対策

  • 表面利回りだけで比較し、管理費・修繕積立金・固定資産税・火災保険料を差し引いた実質利回りを計算していなかった。

    保有コストを差し引いた実質利回りで比較し、コストが上昇した場合の試算も併せて行う。

  • 所有期間が5年を超えたつもりで売却したが、譲渡した年の1月1日時点では5年以下で、短期譲渡所得として課税された。

    取得日と売却予定年の1月1日を並べて確認し、判定を税理士に確認してから売却時期を決める。

  • 買換えで課税を繰り延べられると考えて売却したが、要件を満たさず特例を使えなかった。

    売却の前に、対象資産・期限・使用開始などの要件を専門家に確認し、適用可否を書面で整理しておく。

  • 利回りの高さだけで築古物件を購入したが、次の買い手が融資を受けにくく、想定価格で売れなかった。

    購入前に、次の買い手が使える融資の期間・条件を仲介会社や金融機関に確認する。

  • 海外在住のまま売却手続きに入り、納税管理人の届出や源泉徴収の扱いを決済直前に知って日程が崩れた。

    売却を検討し始めた時点で、納税管理人の要否と源泉徴収の取り扱いを確認し、逆算して準備する。

購入前に出口を確認するチェックリスト

  • 表面利回りではなく、保有コストを差し引いた実質利回りで比較した
  • 修繕費・保険料が上昇した前提でも収支が成り立つか試算した
  • 取得予定日から、長期譲渡所得となる売却年を確認した
  • 次の買い手が使える融資の期間・条件を確認した
  • 再建築の可否・接道条件・修繕積立金の水準を確認した
  • 買換え特例を使う可能性がある場合、要件を専門家に確認した
  • 海外在住のまま売る場合の源泉徴収と納税管理人の取り扱いを確認した

よくある質問

Q. 表面利回りが高い物件は買いですか?
A. 利回りが相場より高い場合、築年数・立地・権利関係など、価格が抑えられている理由が存在することが一般的です。理由を確認し、保有コストを差し引いた実質利回りと出口の想定まで含めて判断することをおすすめします。
Q. 5年を超えてから売れば必ず税率は下がりますか?
A. 長期譲渡所得に区分されれば税率は下がるとされていますが、判定は譲渡した年の1月1日時点で行うのが一般的です。実際の所有期間が5年を超えていても短期扱いとなる場合があるため、事前確認が必要です。
Q. 買換えれば売却益に課税されませんか?
A. 一定の要件を満たす買換えについては課税を将来に繰り延べる特例があるとされていますが、非課税になるわけではありません。要件も細かく、適用の可否は個別に判断されます。
Q. 海外に住んだまま日本の物件を売れますか?
A. 一般に売却は可能とされていますが、買主による源泉徴収や納税管理人の届出など、居住者とは異なる手続きが生じるとされています。決済スケジュールに影響するため、早めの確認をおすすめします。

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