賃貸でも水害リスクは調べられる?ハザードマップと重要事項説明の見方
2026年8月27日午前6時20分、気象庁は石川県羽咋市・志賀町・宝達志水町・中能登町と、富山県氷見市に大雨特別警報を発表しました。被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。能登半島付近では線状降水帯が断続的に発生し、氷見市では同6時20分までの6時間雨量が211.0ミリ、羽咋市で210.0ミリに達しました。気象庁は直ちに安全を確保するよう呼びかけ、道路の冠水、低地の浸水、河川の氾濫、土砂災害への厳重な警戒を求めています。
水害が起きたあとに振り返ると、被害の出やすい場所はあらかじめ分かっていた、という指摘がしばしばなされます。千葉日報社が国土交通省の千葉・首都国道事務所、千葉県、20市町に取材して集計したところ、8月13日から14日の千葉豪雨では、アンダーパス等の「注意箇所」95カ所のうち少なくとも45カ所が冠水していました。大雨特別警報が出た14市町には注意箇所が66カ所あり、うち41カ所が冠水しています。13日に計351ミリの雨が降った千葉市では、市道・国道など16カ所のうちほぼ全ての15カ所が冠水しました。つまり冠水の9割以上が、事前に注意箇所として把握されていた場所で起きたことになります。
住まいを借りる立場からすると、ここは行動に移せる部分です。分譲の購入と違い、賃貸は住み替えの自由度が高い分、契約前の数十分で確認できることの価値も大きくなります。本記事では、日本で部屋を借りるときに水害リスクをどこまで調べられるのか、ハザードマップ、重要事項説明、保険という3つの入口から整理します。個別の判断については、宅地建物取引士や保険の募集人など有資格の専門家にご確認ください。
借りる前に、水害リスクはどこまで調べられる?
日本では、洪水・内水・高潮・津波の浸水想定や土砂災害の警戒区域が、行政によって地図の形で公表されています。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/)では、複数の災害情報を1枚の地図に重ねて表示する「重ねるハザードマップ」と、市区町村が作成した地図へ移動できる「わがまちハザードマップ」が用意されています。住所を入力すれば、内見に行く前に地図上で確認できます。
見るべきは色の有無だけではありません。想定される浸水の深さが何メートルの区分に入っているかを確認してください。浸水深が0.5メートル未満なのか、3メートルを超えるのかで、1階の部屋を借りたときの意味がまったく変わります。加えて、洪水(河川の氾濫)と内水(下水道等の排水能力を超えた雨水の滞留)は別の地図になっていることが多く、河川から離れていても内水氾濫の想定区域に入っている場所があります。
地図で気になる点が見つかった場合でも、そこを避けるという結論だけが答えではありません。同じエリアでも建物の階数、道路からの高さ、駐車場の位置、電気設備の設置階によってリスクは変わります。地図は物件を切り捨てるための道具ではなく、内見で何を見るべきかを絞り込むための道具だと考えるほうが実務的です。
リスクを考えるための数字(報道・公表時点の目安)
- 富山県氷見市の6時間雨量
- 211.0ミリ
- 千葉豪雨で冠水したアンダーパス等
- 45カ所
- 千葉市で冠水した注意箇所
- 15/16カ所
- 水害ハザードマップの説明義務化
- 2020年8月
2026年8月27日6時20分まで。石川県羽咋市は210.0ミリ
千葉日報社の集計。注意箇所95カ所のうち少なくとも45カ所
13日に計351ミリを記録。市道・国道など16カ所中
宅地建物取引業法施行規則の改正により、重要事項説明の対象に加えられたとされています
重要事項説明で水害ハザードマップは説明される?
賃貸借契約でも、宅地建物取引業者が仲介に入る場合は、契約成立までに宅地建物取引士による重要事項説明が行われます。2020年8月の宅地建物取引業法施行規則の改正により、市区町村が配布する水害ハザードマップにおける対象物件のおおむねの位置を示すことが、説明事項に加えられたとされています。土砂災害警戒区域内である場合や、津波災害警戒区域内である場合の告知も、あわせて説明の対象とされています。
ここで理解しておきたいのは、説明されるのは位置であって、安全性の評価ではないという点です。「ハザードマップ上、この付近に該当します」という説明を受けたとしても、それは危険だという意味でも、安全だという意味でもありません。浸水深の区分、避難場所までの距離、建物側の対策を組み合わせて、自分で判断する必要があります。
また、水害ハザードマップが作成されていない市区町村では、その旨が説明されることになります。説明がなかった=リスクがない、ではありません。その場合は都道府県が公表する浸水想定区域図や、過去の浸水実績図を自分で確認しておくと安心です。
賃貸で確認しておきたい4種類のリスク情報
| 種類 | 何を示すか | 主な確認先 | 重要事項説明での扱い |
|---|---|---|---|
| 洪水浸水想定区域 | 河川が氾濫した場合の浸水範囲と深さ | 重ねるハザードマップ/市区町村の水害ハザードマップ | 水害ハザードマップ上の位置が説明対象とされています |
| 内水(雨水出水) | 下水道等の排水能力を超えた雨水による浸水 | 市区町村の内水ハザードマップ | 作成されていれば水害ハザードマップとして同様に扱われます |
| 土砂災害警戒区域 | 急傾斜地の崩壊・土石流等のおそれがある区域 | 都道府県の指定状況/重ねるハザードマップ | 区域内である場合はその旨の説明が必要とされています |
| 過去の浸水実績 | 実際に浸水した記録のある範囲 | 市区町村の浸水実績図・防災担当窓口 | 説明義務の対象外のことが多く、自分で確認する領域です |
1階・地下の部屋を借りるとき、何を見る?
同じ建物でも、階によって水害時の負担はまったく違います。1階や半地下、地下の住戸は、浸水深が浅くても居室に水が入る可能性があります。内見時には、道路面から玄関までの高さ、共用部の地面の傾き、雨水が集まりやすい構造になっていないかを見ておくと判断材料になります。
見落とされやすいのが、住戸の外にある設備です。受変電設備やエレベーターの機械室が地下や1階にある建物では、浸水によって停電やエレベーター停止が長期化することがあります。上階に住んでいても、この影響は受けます。駐車場が半地下になっている場合は、車の被害という別の論点も出てきます。
内見の場で全部を確認するのは難しいので、気になる点は管理会社に質問して回答をメールなど記録の残る形で受け取っておくと、後々の交渉材料になります。過去に浸水したことがあるか、そのとき復旧までどれくらいかかったかは、聞いてみる価値のある質問です。
浸水したら家賃や修繕はどうなる?
賃貸物件が被災した場合、建物本体の修繕は原則として貸主の負担とされています。民法では、賃貸物の使用収益に必要な修繕は賃貸人が行う義務を負うとされ、借主の責めに帰すべき事由による場合を除いて、この考え方が基本になります。借主が加入する家財保険は、あくまで自分の家具・家電など家財の損害に備えるものです。
浸水で部屋の一部が使えなくなった場合、その割合に応じて賃料が当然に減額されるという考え方が民法に定められています。ただし実務では、使用できない範囲や期間の認定が争点になりやすいため、被災直後の写真、管理会社とのやり取りの記録、復旧作業の日程などを残しておくことが重要です。
建物全部が滅失するなどして使用収益ができなくなった場合、賃貸借契約は終了するとされています。この場合は敷金の精算や次の住まいの確保が課題になります。災害時には自治体が一時的な住宅の提供や相談窓口を設けることがあるため、被災した地域の公式情報を確認してください。
賃貸と水害リスクに関係する主な法令
- 宅地建物取引業法 第 35 条
- 宅地建物取引業者は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして一定の重要事項を説明させなければならないとされています。賃貸借の媒介でも対象になります。
- 宅地建物取引業法施行規則 第 16 条の 4 の 3 第 3 号の 2
- 市区町村が配布する水害ハザードマップにおける対象物件のおおむねの位置を、重要事項として説明することが定められているとされています。2020年8月に施行された改正です。
- 水防法 第 14 条・第 15 条
- 国や都道府県が洪水浸水想定区域を指定・公表し、市町村が避難場所等を定めて周知することが定められているとされています。ハザードマップの制度的な根拠にあたります。
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 第 7 条
- 都道府県知事が土砂災害警戒区域を指定するとされています。区域内の物件では、その旨が重要事項説明の対象とされています。
- 民法 第 606 条
- 賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うとされています。借主の責めに帰すべき事由による場合は例外とされます。
- 民法 第 611 条
- 賃借物の一部が使用および収益できなくなった場合、借主の責めに帰することができない事由によるときは、その割合に応じて賃料が減額されるとされています。
よくある漏れと対策
✕駅からの距離と家賃だけで候補を絞り、ハザードマップを一度も開かないまま申し込んだ。
→内見の予約を入れる前に、住所を重ねるハザードマップで検索し、浸水想定の深さの区分まで確認する。
✕河川から離れているから安心だと考えていたが、内水氾濫の想定区域に入っていた。
→洪水と内水は別の地図であることを前提に、市区町村の内水ハザードマップも確認する。
✕重要事項説明で水害ハザードマップの位置を示されたが、その場で流してしまい記録が残っていない。
→説明書の写しを事前に受け取り、該当箇所に印を付けて質問を書き出したうえで説明の場に臨む。
✕火災保険に加入していたが水災補償が付いておらず、家財の損害が補償されなかった。
→契約前に保険証券・契約概要で水災補償の有無、支払条件、免責金額を確認する。
✕浸水後に管理会社と口頭でやり取りし、賃料の取り扱いについて認識が食い違った。
→被災直後の写真と日付、やり取りの記録をメール等の形で残し、修繕の予定日程も書面で確認する。
契約前チェックリスト
- 重ねるハザードマップで住所を検索し、洪水・内水・土砂災害の該当状況を確認した
- 想定される浸水深の区分(0.5メートル未満か、3メートル超か等)を確認した
- 市区町村の浸水実績図や防災担当窓口で、過去の浸水履歴を確認した
- 借りる住戸の階数と、道路面から玄関までの高さを内見時に確認した
- 受変電設備・エレベーター機械室・駐車場が地下や1階にないかを確認した
- 過去の浸水経験と復旧までの期間について、管理会社に質問し記録を残した
- 重要事項説明書の写しを事前に受け取り、水害ハザードマップに関する記載を読んだ
- 家財保険の水災補償の有無、支払条件、免責金額を証券で確認した
- 自宅から最寄りの指定緊急避難場所までの経路を、実際に歩いて確認した
よくある質問
- Q. ハザードマップで色が付いている場所は、借りないほうがいいですか?
- A. そう単純ではありません。同じ区域内でも、階数、道路面からの高さ、設備の設置階によってリスクは変わります。地図は候補を切り捨てるためではなく、内見で確認すべき点を絞り込むために使うのが実務的です。
- Q. 重要事項説明で水害の説明がなければ、リスクはないということですか?
- A. そうとは限りません。市区町村が水害ハザードマップを作成していない場合はその旨が説明されます。その場合は都道府県が公表する浸水想定区域図や過去の浸水実績を、自分で確認しておくことをおすすめします。
- Q. 浸水で部屋が使えなくなったら、家賃は払い続ける必要がありますか?
- A. 借主の責めに帰することができない事由で一部が使用できなくなった場合、その割合に応じて賃料が減額されるという考え方が民法に定められています。範囲と期間の認定が問題になりやすいため、写真と記録を残しておいてください。
- Q. 外国籍でも、賃貸の火災保険に水災補償を付けられますか?
- A. 商品によりますが、在留資格を理由に水災補償だけが外れるという扱いは一般的ではありません。多くは補償内容の選択の問題です。契約前に日本語の契約概要を確認し、不明点は仲介会社や保険の募集人に説明を求めてください。
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